「山の辺の道」は『古事記』・『日本書紀』ににも記される古い道。　

　本来は、盆地東辺に沿う道として、縄文時代や弥生時代から利用されていたものが、桜井市の纒向に大和王権が誕生したことで重要性が増し、「山の辺の道」と呼ばれるようになったものと思われるという。

　現在は東海自然歩道の内、奈良市から桜井市までのルートが山の辺の道として案内、整備されている。石上神宮を起点に北の奈良へ延びるルートを「山の辺の道（北）ルート」、南の桜井へ延びるルートを「山の辺の道（南）ルート」として呼び分けているが、南ルートに比べて北ルートはあまり知られていないし、整備もされていないようだ。

　北ルートは、近鉄奈良駅から新薬師寺、円照寺、弘仁寺、白川ダムを経由し、天理駅までを歩く行程が一般的なようだが、今回はこの山の辺の道北ルートのうち、ルートから少し外れるが興福寺から白毫寺を歩いた。実際に山の辺の道の道標はわずかしか見られなかった。

　スタートは近鉄奈良駅になるが駅周辺は外国人も含めて観光客が多い、特に奈良公園は人で溢れている感じだ。従って、ほとんど素通りすることにしたが、途中の興福寺に立ち寄る。

　興福寺は、法相宗の大本山の寺院で山号はなし。本尊は中金堂の釈迦如来。南都七大寺の一つ。藤原氏の祖・藤原鎌足とその子息・藤原不比等ゆかりの寺院で藤原氏の氏寺。「古都奈良の文化財」の一部として世界遺産に登録されている。

　南円堂（本尊・不空羂索観音）は西国三十三所第9番札所、東金堂（本尊・薬師如来）は西国薬師四十九霊場第4番札所、菩提院大御堂（本尊・阿弥陀如来）は大和北部八十八ヶ所霊場第62番札所となっている。

　また、境内にある一言観音堂は南都七観音巡拝所の一つであるという。

　中金堂は平成30年（2018)に再建されていて、五重塔は昨年から120年ぶりの修理をしているという、覆いが全体にかかっていて姿を見られない。

　歴史のある建物がいくつかあるが、今回は実質は下見目的なので内部拝観もなくて説明もなしになる。

　　　　左：中金堂　　　　　　　　　右：五重塔

　　　　　　　　　　八重桜？が満開か

　　　　　　　　　　　　南円堂と藤棚




　興福寺から奈良公園を抜けて行くが、人々の群れで避けて通ることになるが苦労する。春日神社の参道に出て進むと萬葉植物園の案内の幕がある。

　ちょうど藤の花の時期なので入園することにした、園の中を抜けて奥からも出口があり、春日神社方向に向かえるのだ。

　ここは昭和7年、萬葉集にゆかりの深い春日野の地に昭和天皇より御下賜金を頂き、約300種の萬葉植物を植栽する日本で最も古い萬葉植物園として開園している。

　山野にいのちを芽生えさす草木が多く、現在はなるべく人的な手を加えず、自然のままに生かしているという。約3ヘクタール（9,000坪）の園内は萬葉園・五穀の里・椿園・藤の園で構成されている。

　萬葉集には約180種類の萬葉名で詠まれた植物が登場ている。現代の植物名とは異なるものも多く、多数の植物説があるものを含むため、約300種類が萬葉植物とされているそうだ。鑑賞用の植物もあるが、多くは目立たずそっと生きている植物だ。

　園内は人も多くきていて混んでいるが、目的の藤の園は一番奥の方になるので歩道沿いに進む。途中の萬葉植物はあまり咲いているものはなく土だけの鉢や地面が多い。根を張っていてやがて芽がでてくるのだろう。

　藤の園につくと、ここは更に人が多い。藤の花の咲いている時期なので人気があるのだ。ここには20品種、約200本を植栽してあるそうだ。

　一般的な棚造りではなく、『立ち木造』というこだわりの形式をとり、藤棚のように見上げずに目線で花が観賞できる。

　そして、花が外向きに咲くことで常に光を浴び美しく見える、まさに自然と一体化した風光優美な庭園にしているという。

　早咲きの頃には、園内中に香りを広げる中国の『麝香藤じゃこうふじ』や濃いピンク色の『昭和紅藤しょうわべにふじ』など、珍しい藤が多く咲き、期間の中旬から長い房の藤や『八重黒龍藤やえのこくりゅうふじ』などが咲き始めるという。

　この時期咲いている花は萬葉植物園の入口に紹介されていたが、見落としていて丁寧に見れば花名の札があるのだが、この日はここは通過点なのでさっと回って東入口（裏の入場口）から出ることになる。


　　　　　　　　　　　　　藤の園を巡る





　出てすぐは観光バスなどの駐車場やトイレがあり、国宝殿もあるが参道を進んで春日大社にくる。

　奈良時代の神護景雲2年（768）に平城京の守護と国民の繁栄を祈願するために創建され、中臣氏・藤原氏の氏神を祀る。主祭神の武甕槌命が白鹿に乗ってきたとされることから、鹿を神使とする。
　
　全国に約3,000社ある春日神社の総本社。ユネスコの世界遺産に「古都奈良の文化財」の1つとして登録されている。

　春日大社の社紋は『下り藤』。藤は境内随所に古くから自生し、藤原氏ゆかりの藤ということもあり、次第に定紋化された。御巫みかんこの簪かんざし、また春日若宮おん祭の「日使ひのつかい」の冠にも藤の造花が見られる。

　御本社の「砂ずりの藤」は、名木として知られているが、今は短くて下の砂に触れるような長い藤はない。写真を撮る観光客の群れに混じって素早く撮ってすぐに次へ向かう。

　　　　　　　　　 春日大社

　　　　　　　　　　　　　砂ずりの藤




　春日原始林の中の道を通過して新薬師寺方向に向かう。高畑に出て新薬師寺には今回は寄らないで、新薬師寺の傍らにひっそりとある小さい祠に寄る。といっても中に入るほど広くないので前で見るだけだ。

　十市皇女（とおちのひめみこ）を祀る比賣神社（ひめがみしゃ）といい、比賣塚と呼ばれる小さな古墳の上に建てられている。南都鏡神社の摂社である。

　十市皇女は、父が大海人皇子（天武天皇）、夫が大友皇子（天智天皇の子）。2人の皇子は叔父・甥の関係にあり、672年壬申の乱で剣を交える。

　父と夫が敵対し、多くの豪族や兵を巻き込みながら古代日本最大の内乱を戦い、戦は大海人皇子が勝利し、大友皇子は自害。夫亡き後、父のもとへ引き取られた十市皇女は、678年、当時飛鳥にあった宮中で急逝した（自害説もあるそうだ）。

　小さな境内には、男女がむつまじく肩を寄せあっている像が彫られた高さ1.5mぐらいの石があり、大友皇子と十市皇女だという。

　　　　　　　　　　比賣神社




　そして、最後は少し歩くし徐々に坂道が急になっていくが白毫寺に向かう。

　白毫寺（びゃくごうじ）は、真言律宗の寺院で山号は高円山。本尊は阿弥陀如来。開山は勤操と伝える。奈良市街地の東南部、春日山の南に連なる高円山の山麓にあり、境内から奈良盆地が一望できる景勝地に建つのだ。

　寺号の「白毫」は、仏の眉間にある白い巻毛のことである。

　奈良時代の和銅年間（708年 - 715年）に志貴皇子の山荘があったとされる。明応6年（1497）に兵火に巻き込まれ、本堂、閻魔堂、多宝塔、一切経蔵などの堂宇をことごとく焼失しており、その後再建されたが再び焼失して古い建造物は残っていないという。

　石段を上って受付前までくるが、今回はコースの下見が目的なので前まで行っただけで境内には入らなかった。


　　　　　　　　上左：白毫寺前の石段上り　、上右：後に奈良市街が見える
　　　　　　　　下左：途中で見た山の辺の道の石碑　　下右：途中のの坂道




　そして白毫寺のバス停にくるが本数は少なくて待ち時間があるので、さらに歩いて高畑住宅のバスでバスに乗車し、県庁前まできて下車する。

　県庁屋上からの若草山の眺望や周囲の市街を見下ろせるので人気のあるスポットなのだ。

　小休止後は一応目的は済んだので帰途についたのだ。


　　　　　　県庁屋上から　上左：東大寺が左に　上右：若草山　下左：興福寺の五重塔